会計を待つあいだの雑談で、飼い主さんがふと言いました。「そういえば最近、夜中に水飲み場の音がよくするんですよね」。診察の主訴は皮膚のかゆみでしたが、この一言で多飲の可能性が浮かび、血液検査を提案して内分泌疾患が見つかった、ということがありました。似たような経験をお持ちの先生は多いと思います。
飼い主さんは「どれが重要な情報か」を知りません。だから大事なことほど、主訴ではなく雑談に混ざってきます。問題は、こちらがそれを診察の本筋に集中しながら受け取り、しかも覚えていなければならないことです。
「聞いたのに残っていない」が一番もったいない
診察中の会話には、稟告として価値のある情報が大量に流れています。食欲の微妙な変化、散歩での様子、同居動物との関係、投薬がうまくできていない告白。このうちカルテに残るのは、獣医師が「重要だ」とその場で判断して記憶し、あとで書き起こせた分だけです。
つまり従来のカルテは、会話情報の一部を獣医師の記憶というフィルタで濾したものです。フィルタの性能は、疲れている日の午後には確実に落ちます。聞いたのに残らなかった情報は、次の診察では存在しなかったことになります。
記憶ではなく記録に働いてもらう
この問題の対策はシンプルで、会話そのものを記録にすることです。診察を録音しておけば、「聞き漏らし」は正確には「書き漏らし」だったと分かります。録音があれば、あとから拾い直せるからです。
実際にやってみると、効果を感じるのは再診のときです。前回の診察で飼い主さんが何と言っていたかを、要約ではなく本人の言葉のレベルで確認できます。「前回は『朝だけ咳をする』とおっしゃっていましたが、今はどうですか」と切り出せると、飼い主さんは「ちゃんと聞いてもらえている」と感じてくれます。これは信頼関係に直接効きます。
運用のポイント
録音を診療に組み込むときは、録音データの扱いを先に確認してください。何日サーバーに残るのか、AIの学習に使われないか。そして録音していることは、掲示や一言の説明で飼い主さんに伝わる形にしておくのが誠実です。「カルテを正確に残すために録音しています」で嫌がられることは、経験上ほとんどありません。
VKA:診察を録音するだけで、飼い主さんの言葉が残ります
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