リンパ腫の犬に抗がん剤治療をしている飼い主さんが、診察室では「大丈夫です、頑張ります」と言って帰っていく。その日の夜、ご飯を残したのを見て「これは薬のせい? 病気が進んだ? 明日病院に電話するべき?」と検索を始める——。腫瘍科の診療をしていると、この「診察と診察の間の不安」が飼い主さんの生活の大部分を占めていることを痛感します。
このコラムでは、慢性疾患の通院間に飼い主さんがどんな状態にあるか、そして病院側が疲弊せずにそこを支える方法を書きます。
質問は診察室では出てきません
診察室での飼い主さんは、緊張しているうえに時間を気にしています。「先生も忙しそうだし、こんな細かいことを聞くのは申し訳ない」と、質問を飲み込んで帰る方がかなり多い。そして疑問は家に帰ってから、それも夜に湧いてきます。
そこで頼るのがインターネット検索ですが、がんや心臓病で検索すると、極端な体験談や根拠のない民間療法が上位に出てくることも少なくありません。不安な状態で読むと、どんどん悪い方へ引っ張られます。次の診察で「ネットでこう見たんですが」と切り出される内容の修正に時間を使った経験は、多くの先生がお持ちだと思います。
電話相談で受けるには限界があります
では病院が「いつでも電話してください」と言えるかというと、現実には難しい。診療中の電話は現場を止めますし、夜間や休診日には対応できません。「気軽に電話して」と言った結果、本当に気軽に電話が来て受付が回らなくなる、という失敗は容易に想像がつきます。
つまり構造としては、飼い主さんの不安は夜に生まれるのに、病院が応対できるのは診療時間内だけ、というズレが問題です。
「病院公認の相談窓口」という考え方
このズレを埋める方法として、かかりつけ病院が飼い主さんに「夜でも使える相談窓口」を公式に渡しておく、という形があります。ポイントは「公認」であることです。飼い主さんが勝手にネットで調べるのと違い、病院が提供する窓口なら、回答の方向性を病院側がコントロールできます。
この形をとる場合、確認すべき点は3つあります。
1. 診断をさせないこと
相談窓口が「それは再発かもしれません」と診断めいたことを言ってしまうのは最悪です。症状の一般的な解説と、受診の目安の提示までにとどめ、判断はかかりつけの先生に返す設計になっているかを確認してください。
2. 緊急のサインを拾えること
呼吸が苦しそう、けいれんしている、といった内容には、解説ではなく「すぐに受診を」と返す必要があります。緊急性の切り分けが仕様に組み込まれているかは必ず見るべき点です。
3. 専門家の監修があること
慢性疾患の相談は、疾患ごとの知識の正確さがそのまま品質になります。誰が監修しているのか、対応疾患は何かを確認してください。
通院間フォローは治療継続率の問題でもあります
不安が放置されると、飼い主さんは通院そのものをやめてしまうことがあります。「連れて行っても可哀想なだけかもしれない」という気持ちは、誰にも相談できない夜に育つからです。診察と診察の間を支えることは、飼い主さんのためであると同時に、治療を完遂するための診療の一部だと私は考えています。
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